さわごと

備忘録。日々のことをつらつらと・・・

純国産のプライド

靴の問屋に就職した若者から「ブランドを一つ任されたので、全ての工程を国産で作ってる靴メーカーを探してる」との相談を受けた。

 

作りたい靴はハイヒールとのこと。

 

靴を作る工程、とりわけ私が仕事としてる「製甲」は工程の複雑さ故、中国や人件費が安いアジア諸国での生産が殆どの割合を占めるのが現状。

 

女性用のハイヒールとなるとなおさら。

 

メンズの靴と比べても、純国産で作られてる靴やメーカーを探すのは非常に難しいこととなっている。

 

今回の相談を受けた時、20年以上御縁のあるレディース靴メーカーさんが私の脳裏に浮かんだ。

純国産を謳い、特にアパレル系の仕事を主たることとしてたのでヒール物も得意。

既に日本から撤退はしてしまったが、某海外ブランドの数少ない工場としての認定も受けていた。

 

まだ駆け出しの頃からここの社長にはいろいろとお世話になっている。

最近では先方が忙しい時期に仕事を手伝うことが多く、最後に取引したのは確か去年の今頃。

相変わらずいい靴を作ってるなぁという印象だった。

 

このメーカーさんなら大丈夫だろうと紹介〜商談成立〜サンプル靴の作成となったのだが…

 

上がってきたサンプルがかなり酷い出来だと若者から電話があった。その声は怒りを通り越して涙声に近い。

靴が出来上がるまでの過程で何があったのか、指示がどこまで行き届いていたのか詳細は不明だが、とにかく今、目の前に酷い靴が並んでる現実を若者は切々と訴えていた。

 

にわかには信じられなかった…一体何があったのだろう。

「人手が足りなくて大変だ」との話は聞いていた。その影響が今回の結果へと繋がってしまったのだろうか。

それとも、まだキャリアの浅い若者だから、なめられてしまったのだろうか…いや、そんなことをする会社ではないはず。

 

追い討ちをかけるように写真が送られてきた、製甲がひどく荒れてて全く品のない靴。

とてもじゃないがハイヒールを作る仕立てではない…その靴には私が知ってる「純国産で綺麗な仕事をするメーカー」の面影などどこにも無かった。

 

あんな酷い物を堂々と納められるなんて…「純国産メーカー」としてのプライドは何処へ行ってしまったのか。

国産にこだわり続け、中国やアジア諸国での生産を頑なに拒んだ結末がこの靴だとしたら…

 

これは敗北である。

 

一部の工程を海外生産に頼らない限り、日本の靴は生き残っていけない、そんな現実を突きつけられたようだ。

 

紹介した立場とは言え、取引が始まった以上は会社同士のやりとり。既に、私が間に入ってどうこう出来る問題ではないし、他に純国産でこの仕事を出来るメーカーも見当たらない。

 

若者が思い描く靴はもう日本では作れないのだろうか。

靴を作る仕事は、そんな夢も持てないところへ堕ちてしまったのだろうか。

せめて今回の仕事は、そんな結末ではあってほしくない。

これ以上、その若者が悲しまないように。

 

私も悲しい...

 

 

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